藤織りの歴史
藤織りは山に生える藤の蔓から採った繊維で作る織物です。
藤布は、古くは万葉集にも詠まれ、江戸時代に非常に優秀な繊維である木綿が普及するまでの長きに渡り、広く庶民の手によって作り続けられてきました。しかし、時代と共に生産数は減り、現在では藤布を手にする機会はほとんどなくなってしまっています。
日本各地で藤織りが途絶える中、唯一、制作技術が受け継がれ続けている土地が京都府宮津市上世屋です。
上世屋では、女性たちの農閑期の仕事として藤織りが続けられてきました。木綿を栽培することが不可能なほどの寒冷地である上世屋の冬、雪に閉ざされた家の中で囲炉裏を囲み、女性たちは寄り集まって藤糸を作り続け、次の春までに布に織り上げたのでした。
昭和の終わりごろまで、おばあちゃんたちの仕事として続けられてきた藤織りですが、2020年現在、上世屋集落で藤織りに携わっているおばあちゃんはたった一人になってしまいました。しかし、上世屋のおばあちゃんたちに直接ご指導いただいた人々によって、1989年に「丹後藤織り保存会」が発足し、藤織りの技術伝承が誠実に続けられています。
上世屋では藤布を「のの」と呼びます。布(ぬの)から転じた呼称で、布といえば藤布のことを指し、木綿の布は もめんもの と呼んで区別していました。
「藤織り工房 ののの」は、丹後藤織り保存会で藤織りの技術を学んだのち、上世屋の地で「のの」の制作活動を始めました。上世屋集落で藤織りが生活の一部であることが絶えないようにと願って……

手練れだったチエおばあちゃんの家の前で藤蔓の皮を剥くおばあちゃんたち。
縁あって、藤織り工房 ののの はこのチエおばあちゃんの家に在ります。
春の氏神様の祭りの前に、一冬に織り上げられた藤布が集められ出荷されていました。
(1979年 塚越貞爾氏撮影)
丹後藤織り保存会のウェブ